秩父の三波川帯・秩父帯・新第三系 2003/06/07〜08
 関東支部では標記地質見学会を6月7日(土)〜8日(日)に開催しました.本見学会は産業技術総合研究所地質調査総合センター(地質標本館)との共催とし,案内者に産総研の竹内圭史さん,牧本 博さん,酒井 彰さん,青木正博さん,春名 誠さんの5名をお招きしました.また見学会の準備には地質標本館の谷田部信郎さんに大変お牡話になりました.本見学会は研究者同士の討論の場というよりは,地質学の古典地で地質学を基本から学びたい方のためのセミナーとして皆様に開催のご案内をしました.その結果,募集締切前からキャンセル待ちがでるほど好評で,当日は直前のキャンセルがでたものの18名の参加者を集めることができました.参加者の内訳は,コンサルタント業従事者6名,資源関係者3名,教職関係者4名,学生1名,その他3名で,地質調査を仕事としている方々の参加が多くありました.参加者はみな真剣で今回の見学会でたくさんのことを学び取ろうとする姿勢が感じられました.案内者の方々には基本的なことから丁寧に説明していただきました.参加者からは有意義な見学会だったとの感想をたくさんいただき,なかには「今まで参加した地質学会の巡検のなかで一番良かった」と言ってくださる方もありました.関東支部では今後もこのようなセミナー形式の地質見学会を企画していこうと思います.今後とも関東支部の活動にご注目ください.(関東支部幹事 中澤 努)

地質見学会に参加して  上西敏郎(帝国石油)
 秩父といえば“長瀞の変成岩”をすぐ思い出し,若かりし学生時代に巡検で訪れた経験を関東支部の皆さんはお持ちと思います.かくいう私も約35年前,先輩につれられてはじめて変成岩を見ました.“シラス”と“桜島の溶岩”しか見たことのなかった私には,それは宝石にようにきれいな右に見えたものです.
 現在,海外でのプロジェクト発掘のための堆積盆地評価を“稼ぎ”にしており,いろいろな地域・時代の地質にふれているものの,それはパソコン上のバーチャル空間での地質調査ばかりであります.そのため日頃から,野外巡検に行き,現物を見ながら“オテントサマ”の下で弁当を食べたいという気持ちがたまっていました.そんな矢先,地質学会NEWSで巡検案内を目にし,巡検前日までキャンセル待ちしてでも是非参加したいという事で,今回無事仲間に入れてもらえました.
 巡検は関東地方に“梅雨入り”宣言が出される前の6月7日(土)から8日(日)の2日間,“地質の博物館”秩父盆地とその周辺で行われました.
 初日は,西武株父駅を10時に出発.きれいな中型観光バスで,段丘面に開けた秩父市街地を長瀞へ向け北上.車中右手(東側)には三波川帯からなる外秩父の山が見え,西側の第三系とは出牛(じゅうし)−黒谷断層で境され,その断層に沿って南北に鉱泉がならんでいる事が理解できました.
 Stop1は,長瀞自然史博物館前の川原の“虎岩”で,褐色のスチルプノメレンと(チャートを原岩とする)白色の石英片岩の縞から出来ています.その傍には角閃石/縁れん石/線泥石等の量比の違いにより色調の違う苦鉄質片岩が分布していますが,“虎岩”は微小な層内褶曲構造のため,層厚を知るのは難しそうでした.ただ,この低温高圧型の変成帯である三波川帯が,ジュラ紀後期を主体とする“付加コンプレックス”を原岩とし,白亜紀前半から白亜紀後期に変成し,白亜紀末に地表近くまで上昇したという説明を受け,地質時代の長さと変動の激しさは(新しい知識が不足している私には)驚きでした.
 Stop2はやや上流の親鼻橋の下で,都城先生の変成岩研究がここの紅れん片岩から始まったことを知りました.荒川一帯は天然記念物に指定されており,手を出せずじっとこらえながら,おいしい昼食を食べ,第三系と白亜系の不整合の大露頭Stop3へ移動しました.
 Stop3は小鹿野町の「犬木の不整合」として有名で,1億3,000万年前の白亜系山中層群を1,600万年前の中新統白沙層が不整合で覆っていました.現在,担当しているアルジェリア南部では,ヘルシニアン造山により,デボン系を傾斜不整合に覆う三畳系が産油層になっており,その姿を「犬木の不整合」にみるようで年甲斐もなく感動しました.その後,不整合の11位層準に発達する,小鹿野町奈倉の赤平川のスランプ槽曲構造(Stop4)と,すぐ近くの通称“ようばけ”の大露頭(Stop5)で,かに化石採集に夢中な時間を過ごし,一日目の巡検を終えました.
 夜は,長瀞の民宿で夕食を早々済まし,夜間勉強会・懇親会が翌日?まで開催されました.関東山地の20万分の1図幅を使った広域地質,二日目見学予定の秩父帯・四万十帯の事前説明,付加体の形成についてOHPでの説明,秩父鉱山での鉱石サンプル紹介,さらに自己紹介もあり,和やかで充実した夜をすごしました.
 二日目は,秩父市南西方(奥秩父)大滝村の荒川上流で,変形の進んだ砂岩,凝灰岩を含む四万十帯の黒色千枚岩を観察.変成・変形(プーディン化)の仕方が,岩相により微妙に違うのが良く観察されました(Stop1).その後,荒川支流の中津川に建設中の滝沢ダムの付け替え道路として建設された大ループ橋を渡り,秩父帯を流れる中津川沿いに秩父鉱山へ進みました.秩父鉱山は西南日本外帯に見られる花崗岩類と同じ,中新世中−後期に秩父帯に貫入した花崗岩類により形成されたスカルン型鉱床で,秩父鉱山の六助沢(Stop3)で,食事と鉱物の説明・鑑定を受けながら楽しい鉱物採取を行いました.帰り際,少し下流でルートマップを見ながら,株父帯の砂岩,泥岩,チャート,石灰岩の岩相や産状を歩いて観察し巡検を終えました.
今回の巡検は,
  • 主催者の産総研等のその道の専門家の詳しい丁寧な説明が受けられたこと
  • “地質の宝庫?”秩父地域で見られる地質を短時間に総まくりしてみられたこと
  • 巡検資料も,事前調査に基づき極めて丁寧/詳細/重宝なものであったこと
  • 時間設定,宿泊,食事,バス等の事前のアレンジがよく快適であったこと
  • 良い天気と好奇心旺盛な参加者に恵まれたこと
 から,楽しく快適で,知識が向上し,すばらしい満足しえた巡検でした.遠く筑波からクルマで駆けつけて巡検を支えてくださった多くの主催者の皆様に感謝しながら,株父を後にしました.
 是非,6月第1土曜/日曜を“関東支部巡検の日”に指定し,これからも関東支部全員で巡検を盛り上げましょう.
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