(10) 朝霧高原


 西北西からの富士山の眺望.目立つのは,富士山のスロープの著しい非対称性である.左手斜面には側火山が連続し,緩傾斜となっている.山頂白山岳から高度900m地点までの平均傾斜は14.5°(260/1000).これに対し,右手斜面(山頂から南西天母台方向)の高度900m地点までの平均傾斜は20°(360/1000)である.前者に比べて傾斜が40%近くきつい.なお,天母台には奇石博物館(電話0544-58-3830)がある.世界中から12000点の石を集めたという変わった博物館.料金は大人700円,小中高校生300円.水曜日休館(7/20〜8/31は無休).
 古来,駿河の国から甲斐の国に至る官道は,富士火山西麓の朝霧高原を北上し,直ぐ先の溶岩台地(根原溶岩台地)を越えて,本栖湖畔に至り,精進湖北の「女坂」から御坂山地を越えて,甲府盆地に向かっていた.富士吉田市歴史民俗博物館の堀内 真学芸員によれば,「坂」という文字は,古代には「峠」のことを指していたそうである.現在では女坂峠,御坂峠,篭坂峠などと呼ぶ.坂という文字が入らない峠は,より後期に作られた道だそうである.
 富士山の西麓〜南西麓には,1.4万年前〜数千年前の間に,溶岩流が幾度も流下している.普通なら,より古い火山麓扇状地が表面に露出し,多数の浸食谷により解析されて,平坦面が少なくなっているはずである.しかし,溶岩流があまりに膨大であったため,扇状地面を覆い尽くし,富士山の秀麗な山麓緩傾斜面を今日まで維持してきた.こうした溶岩流の末端には豊富な湧泉(白糸の滝など)があり,山麓部市町村の生産と生活,官道の維持に役立ってきた.
Copyright © 2003 日本地質学会関東支部 All rights reserved.